本読みたろたろの備忘録

洋書を中心に、読んだ本の内容を忘れないように記録します

Oster, Emily (2020) Cribsheet: A Data-Driven Guide to Better, More Relaxed Parenting, from Birth to Preschool, Profile Books Ltd

概要

・全体で352ページ(うち、注や索引を除いた本文は304ページくらい)。たろたろが読んだのはペーパーバック版で、ハードカバー版は2019年に出ている。邦訳なし。

・出産から幼児期において親が直面する、母乳かミルクか、赤ちゃんと同じベッドに寝ることについて、子供にTVを見せて教育することについて、トイレトレーニングといった様々な論点について、エビデンス(データ)を示して論じる。

・著者の主張をいくつかピックアップすると:短期的には母乳を与えることによって赤ちゃんの健康に良い影響がありそうだが、よく言われているほどはエビデンスは集まっていない。また、母乳が長期的に子供に良い影響を与えるという強い証拠はない;アルコールを摂取しても、母乳に含まれるアルコールは母親の血液中のアルコールと同じ濃度だから、その母乳を赤ちゃんが飲むことの悪影響は非常に少ない。長期的な影響も同定されていない;乳幼児突然死症候群SIDS)を避けるため、赤ちゃんは(1)仰向けに、(2)ベビーベッドで一人で(同じベッドで寝るのはNG)、(3)親と同じ部屋で、(4)周りに柔らかいものを置かずに、寝かすべき、0〜2歳児は、TV画面を見るだけでは何も学べない;トイレトレーニングを早期に始めても、統計的には終了時期はそんなに変わりない。

 

感想

2013年に出版されたExpecting Better(土方奈美訳『お医者さんは教えてくれない妊娠・出産の常識ウソ・ホント』(東洋経済新報社、2014年))の続編で、前著と同様、たくさんのグラフやデータを引用して、幼児期の子育てに関して色々と言われていることについて検証する本です。妊娠・出産・子育てについては、「これをしてはダメ」「こうしなきゃダメ」ということがあまりにも多すぎると感じていますが、この2冊でそれらのうちのどれがちゃんとしたエビデンスに基づいているのか、どれが根拠薄弱なのかを指摘してくれて、少し希望が湧いてきます。

前著で最も衝撃的だったのは、妊娠中の軽い飲酒が赤ちゃんにマイナスの影響を及ぼすというエビデンスはなく、妊娠第2期、第3期であれば一日1杯までなら飲酒しても問題ないという主張だった(ネットで調べてみると賛否両論あるようですが)り、妊娠中も適度な量であればコーヒーを飲むことに問題ないという示唆でした。本書でも、母乳を与えている人がアルコールを飲むことについて、そこまで神経質にならなくて良いということを言っていて、著者の姿勢は一貫しています。オスターさん、コーヒーやアルコールが相当好きなんでしょうね。

また、赤ちゃんに英語のビデオを見せて早期教育しよう!というようなことをたまに聞くのですが、本書が集めたエビデンスによれば、それによる効果はないようです。面白いのは、TVを見せておくことに効果はないけど、実際に目の前に人がいてその人が話したりしていると効果はあるということ。母国語のボキャブラリーの習得についても同様で、一番効果があるのは、親が本を読み聞かせることだったようです。赤ちゃんはTVに映る人が話すことと、目の前の人間が話すことを、明確に区別することができるということなのでしょうか。

妊娠・出産・子育てに関して、多数の学術論文を引用しながら読者に軽妙に語りかけるという本はなかなか日本で見かけないように思います。祖父母世代や親世代の方からこうしろああしろということが言われやすいテーマだからこそ、エビデンス(の有無)をはっきり示してくれる本書が邦訳されると良いなと思います。